【歌い手】めいちゃん １６【めいふぁみ】

金玉小説かきます

「玉と俺と五月のこと。」
作者・めいちゃん

「ん……んん……」昼の微睡みは尊い。人気歌い手の俺にとって、こうやってうとうとと昼寝できる時間は少ない。憩いの時。人生に数少ない、スターが休息。

スターの魂はいつだって摂氏45度。微睡みの中にいるのは、まだ見ぬハニーとのランデブーではなく、溶け去った白昼夢。緊急事態宣言が出るくらい世の中だって、心はいつでもオルタナティヴ。ほら。歌声が始まって、

武道館は満員で……。って……「あぁぁ、、、夢かぁ」

俺はメイ。普通の男子高校生。歌手になるのが夢だが、今はモスバーガーでバイトをしている、ごく普通の男。彼女もいないし、成績は中の下。唯一の特技といえば、金玉の皮を自由に伸ばせること。

自然教室でウケるために一発芸を披露したのが運のつきで……。「すげー！」「なにこの金玉！？」「チューインガムみてぇ」「床につくのやべぇ」簡易的な下ネタが大好きな高校生男子に金玉の伸び縮みは大受け。いつでも金玉が伸びるので「五木タマ（いつでも金玉が伸びる）」というあだ名をつけられた。

主無能？

その日の教室もいつものように賑わっていて。
「なぁ五木！コロナでやることなくて暇だしさー、トイレで、五木の金玉芸見せてくれよ！！左右にめっちゃ伸びるやつ」
話しかけてきたのは、クラスメイトの成瀬裸婦（ラフ）。ラフという名前は存外DQNネームだが、ラップがうまくなるようにと名づけられたらしい。

「えぇー……」そう。緊急事態宣言の最中、学校は通学停止になっていて、ここ最近は五木こと俺も金玉の調子をまったく見ていなかったことに気付いた。「ずいぶん伸ばしてないから伸びるかなぁ」「大丈夫大丈夫！めいの金玉は３時間たったカップヌードルってとこさ」「どゆこと？」「”のびっぱなし”」別にうまくないな、二重の意味で、と思った。

めいちゃん放送してもらっていい？

仕方なくトイレの個室便所に連れて行かれた俺だったが……そこで、登場人物は全員、物語の異変に気付くことになる。「あれ？おかしくね？」「３時間たったカップヌードルみたいだった五木の金玉の皮が、まるでスルメイカみたいに……」そう、俺の金玉の皮は、１５年間生きていてみたことがないくらいにパッキパキだったのだ。

「んあれ……おかしいな」ゴムゴムの実を間違えて金玉が食べてしまったのではないか、と思うくらいグニョグニョだった俺の金玉の皮は、まるで死語硬直した俺のじいちゃんの肌のように硬く、どう触っても動かないくらいカチコチになっていたのだ。

きしょい奴ら全員消えろ

気持ち悪いんだが

ここ主もういないの？

そんな気持ちになった。（そもそも俺の金玉が伸びるか伸びないかを気にしてる連中、全員きしょいだろ！）「いや……なんでもない」金玉を武器に人気者になった俺は、金玉ネタに心底飽きていた。

「この学校の主はいねーのかよ！」俺はつい独り言でそう叫んでいた。「んんーーーーちゃんめいどうしたの？」こう話しかけてきたのは、クラスのギャル代表、ルス子だった。

「あんた、もうクラスの外でも話題になってるよ、めいのトレードマークだった金玉、最近全然伸びないらしいじゃん？？」「んー、もう俺は自分で金玉ネタに飽きてるんだよ」

そもそも俺は思春期の高校生だ。金玉というプライベートゾーンについて不特定多数に話題にされるのが嬉しいわけはない。「なんでみんな金玉なんかにそんな夢中になれるんだ？」

ルス子は頬杖をついて続けた。「そりゃーみんな下ネタが好きなのよ。性欲睡眠欲食欲。偉そうなことを言っても、本当に人が心骨注げるのはそれしかないわけ。みんなねーかしこの振りしたバカだから」

わろた